2017年05月03日

新国立バレエ イーグリング版『眠れる森の美女』の特徴


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今週末(2017年5月5日〜13日)から再演されるイーグリング版『眠れる森の美女』の版としての特徴を、初演時のレヴューをもと他の版と比較しながら、まとめてみました。

「プロローグ」
「冒頭のカラボス」
カラボスが冒頭で登場するのがイーグリング版では印象に残る。
さらに王宮への登場では大きなタランチュラに乗って現れ、ポアントで女性ダンサーが踊る。
このカラボスの設定はこの版の特徴であるが、初演時には今ひとつその効力を発揮していなかった。その理由は「第2幕」の終わりの所で述べる。

「妖精の数が1つ多い」
  妖精がリラの精も含めて7(通常は6)リラの精、誠実、優美、寛容、歓び、勇敢、気品。
  妖精の曲が足らないので「気品の精」には原曲第2幕の「男爵夫人の踊り」が使用される。

「リラの精のヴァリアシオン」 
振り付けは、ロシア系とは大きく異なり、ピーターライト版とほぼ同じ。


「第1幕」
・ほぼ、英国ロイヤルバレエ系の振付を踏襲(ロシア系とは異なる)。
・コーダ(オーロラの仮死)は、通常の演出よりもドラマッチックに演じられる。


「第2幕」
「プロローグ」も幾らか特徴があったが、イーグリング版はこの第2幕が最もユニーク。

・王子のソロに使用される事が多い「伯爵夫人の踊り」で王子と伯爵夫人とが踊る。

「王子のソロ」
原曲第3幕の「サラバンド」が使われる。
1946年初演のド・ヴァロワ/アシュトン版を踏襲したと思われるが、振付けは異なる。
マクミラン版もこの曲を使うが、イーグリング版の振付けは回転技が多く、アシュトン版よりもマクミラン版に似た感があった。

「パ・ダクション」
幻のオーロラは、通常版のようにジュテで飛び出さず、パ・ド・ブレで静々と現れると、
思っていたが、実際は、アラベスクで一度ポーズをして、ジュテで飛び出す型でした。
(私の記憶違いです)

「オーロラのヴァリアシオン」
どの版とも異なる独自の振付で、初見だと大いに戸惑う。
舞台奥の遠景のオーロラが徐々に前景へと現れてくる。
通常この踊りで強調されるアラベスクだけではなく、回転技も多い。
その点では、「王子のソロ」と呼応しているのかもしれぬ。
第2幕「オーロラのヴァリアシオン」に関しての振付の歴史に関しては、以下のページを参照されたし。
→ http://zoushigaya.seesaa.net/article/408519801.html?seesaa_related=category

「パノラマ」
通常は、リラの精に伴われて王子が森のお城へと向かう間奏的な場面だが、イーグリング版では、森の精のコール・ド・バレエが奇麗に踊る。
このシーンは新国立バレエ団特徴を活かして見応えがある。

「カラボスとの闘い」
プロローグでの印象的なカラボスのあり方からすれば、
もっと活躍しそうなものだったが、このシーンではあっけなく退散してしまう。
プロローグとこの幕との整合性に欠けるのだが、第2幕でのオーロラと王子とのラムールを重視したということか。
それはこの幕の掉尾を飾るパ・ド・ドゥを強調し、王子とカラボスとの闘いよりもオーロラと王子のうっとりするような踊りで幕を下ろしたかったからだろう。

「パ・ド・ドゥ」
通常はない、目覚めたオーロラと王子とのダンス。
曲はチャイコフスキーが美しいヴァイオリン独奏を入れ仕立てた「間奏曲」。
ピーター・ライト版や牧阿佐美バレヱ団が上演するウエストモーランド版には、この場面で間奏曲を使用したパ・ド・ドゥがあるが、それらの版ではオーロラは豪華なチュチュで踊るのだが、イーグリング版ではネグリジェで踊る。(ヌレエフ版では、この幕の王子の長く技巧的なソロの曲として使われる)
振付け全体としては、イーグリング自身がアレクサンドラ・フェリと踊ったマクミラン版の『ロメオとジュリエット』のバルコニーを思い起こさせるニュアンスがある。最後も深いベーゼでライトが落ちる。


第3幕
・美術(川口直次)や衣装(Toer van Schayk)が帝政様式に見える。
衣装に関して、再演(2017年5月)で王妃役を演じた仙頭由貴が自身のブログで
第三幕の王妃の衣装は、ナポレオン一世の皇妃ジョセフィーヌの肖像画がモデルとなっていると述べている。
→ https://ameblo.jp/sentoballet613/entry-12272924173.html
初演版は、ユグノー戦争を治めたブルボン家の初代アンリ4世から100年後の17世紀のヴェルサイユ宮殿がイメージされていたはずだが、やや違和感を持つ。

第3幕「踊り」順番
序「ポロネーズ」
1「宝石」(エメラルド、アメジスト、サファイア、金)
通常踊られている「サファイアの精」の5拍子のソロ(22-d)はカットされ、踊られる事の少ない「金の精」(22-b)のソロが入る
2「白い猫と長靴を履いた猫」
3「フロリナ姫と青い鳥」
4「赤ずきんと狼」
5「親指トム」(パ・ペリシオン)
6「グラン・パ・ド・ドゥ」
終「マズルカ」
「アポテオーズ」

「祝宴の踊り」
「宝石」
女性3人(エメラルド、サファイア、アメジスト)と男性1人(ゴールド)で踊られる。
通常演奏される五拍子の「銀の精」は(原典では「サファイア」)はカットされ、カットされることの多い「金の精」が、初演時の音楽とともにその振りを幾らか残しながら、男性らしい大きな踊りに変えられて踊られた。
(初演時は、福岡雄大、池田武志、小野寺雄の日替わり)
初演時にはこの曲が第2幕のオーロラのヴァリアシオンとして振付られた。現行のセルゲイエフ版では第3幕のリラの精のヴァリアシオンとなっている。

「赤ずきん」
振付を現代風に工夫した振付けで、「赤ずきん」を踊った五月女遥が出色。
ダブルキャストの広瀬碧も良かった。

「親指トム」(初演時は、八幡顕光、小野寺雄の日替わり)
最後に踊るのが庶民たる「小人」の乱入で、
これが異彩を放って良い出来だった。

そしてその直後に
オーロラと王子のグラン・パ・ド・ドゥが始まる。

「グラン・パ・ド・ドゥ」
「親指トム」からすぐにグラン・パ・ド・ドゥに繋がるので、
以前の新国立バレエ・セルゲイエフ版にはアントレで宝石たちが踊り祝福をしたが、その部分は今回の版ではカットされている。
この曲の流れの意図が何かはよく分からないが、後で少し触れる。

パ・ド・ドゥ及びヴァリアシオンは、基本的に英国系の振付で踊られ、特異な点は見られない。
だが、コーダのテンポが通常よりもずっと高速で踊られた。
ここには、振付家の何らかの意図を感じざるを得ない。
まさに「古典」とされるこのパ・ド・ドゥの振付けを基本的には変えることはなく、
しかし、一方で現在のダンサーによる現代的な表現として、このテンポはあったのではないか。
「祝宴の踊り」の最後に「親指トム」を入れそこに現代的な振付けを施し、それとこの高速コーダて古典的なパ・ド・ドゥをサンドウィッチした。
それが、このイーグリング版の第3幕の特徴といえる。

「アポテオーズ」
しかし、全編の最後は、ヌレエフ版のようにマズルカを踊り続けながら終わるという演出は採らず、あくまで古典の「アンリ四世讃歌」を謳い上げる「アポテオーズ」に戻って、幕となる。

以上です。

日本で『眠れる森の美女』を踊る事の意義も含めた、初演時の詳細なレヴューは、こちらにあります。
→ http://zoushigaya.seesaa.net/article/410430193.html?seesaa_related=category





La_Belle_au_Bois_Dormant_-_third_of_six_engravings_by_Gustave_Doré.jpg


挿絵は、Paul Gustave Doré による Charles Perrault "La Belle au bois dormant" (1867)









posted by 星跡堂主人 at 22:50| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 新国立バレエ団 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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