2018年08月19日

「Evony Ivory」 振付/宝満直也 出演/米沢 唯、宝満直也 2018年8月10日 大和シティバレエ公演


大和シティバレエ公演、宝満直也振付の「Ebony Ivory」が凄かった。
昨日見たバレエフェスの全てが吹き飛んでいくくらいに。
切なく、激しい。
見終わった後でこんなに動悸が抑えられなくなる作品はそうはない。

「Disconnect」にも切なさはあり激しさもあった。
が、今夜の二人はもっと静かに激しく切ない。
フィリップ・グラス( 「Morning Passages」ほか)だからか、
音がある種のシンクロナイズを求めている。

冒頭、壁の上の白いオイルコーティングされたような衣装を纏った女と壁から離れ、うつ伏せている白いTシャツと黒いパンツの男。
優しげなピアノの上昇と下降のアルペジオ、
壁の上の女と下の男は、鏡に映り合うように左手と右手で対称的にピアノを奏で出す。
ディアゴナルのラインができる。
女は背後に気配を感じつつ何かを待っている。そこへ男が忍び寄る。
恋は、お互いの顔をまじまじと見つめ合いながら、
そこに自分とシンクロするものを見出す。
小林秀雄が、ソーニャの目の中に、自ら自身の罪の告白を見たラスコーリニコフを、見出したように。
そこには奇妙な告白がある。
自分の顔を映す他者。
壁が移動し、そこに隔たった女と男の影が重なる。
重なりシンクロするのは、幻にすぎない。だからこそより求め合う。
しかし、米沢唯と宝満直也は、ありがちな振付のように見た目で激しく求め合っているわけではない。
グラスの音楽のように深く沈潜しながら、寄せては返す波の如く、即かず離れず静かに求め合っている。しかし、その静けさが手に取るように激しい。
激しく、見るものの身体さえも揺り動かしていく。
米沢が様々な表情を見せるのに比べて、宝満はほとんど表情を変えてないように見える。
男が女に翻弄されているのか。女が男に翻弄されているのか。
壁の中に女が消えていく。
すると、音楽は上がったり下がったりの旋律が加速していき、
男は失った何かを求めるかのように跳びはね踊る。
女は黒の衣装になり、壁の向こうから再び現れる。
白鳥/黒鳥のイメージが重なるが、そんなイメージはただの付属物でしかない。
女は物凄い勢いでグランフェッテを回るが、それは本当はグランフェッテでなくてもいい。
米沢唯だからフェッテを廻ったのだろうが、そこにあるのはただ激しく名状し難い身体の衝動だ。さっきまでの女とは明らかに違う。
米沢の最高速のフェッテ、それは物凄い破壊力だ。空間がどんどん切り裂かれていく。
だが、米沢のフェッテは回転軸が余りにも正確になので、決して音を立てない静謐さを持っている。静謐な激しさ。
米沢の優れた技術がそれを空間に顕在化させる。これは誰でもできることではない。振付家は米沢のスキルを作品構造の中で見事に入れ込んだ。
というか、この作品は、米沢の身体に潜む静謐さの中の激しさを看破していたことで、生まれたものなのかもしれぬ。

連鎖し続けるグラスの音楽と、
その上を全く淀みなく動いていく二人の類い稀なスキルが、
激しいのに静かな狂おしさを表現している。
身体が重なり合う。しかし、音楽よりもさらに静かに。
それがさらに見るものを誘惑する。胸が切なく高鳴る。

最後に壁は落ち、音も鎮まり男は女を静かに天へと揚げる。
見事な構成力。全ては米沢唯の身体を見抜いた宝満の計略だったか。
いやそうではあるまい、そう見えるだけなのだろう。
そんな計算尽くのダンスが、私をこんなにも激しくは揺さぶるとは思えない。
この作品は、男からも女からも見られる。
どちらも静かに渇き求め、シンクロしつつ微妙に過ぎ流れていく。
かつて、米沢唯がこんなにも「激しく」踊ったことがあっただろうか。
宝満直也がそれを引き出したのだ。
是非是非再演を求めたい。だが、今夜の強度は再現不能だろう。再演されても、またそれは別のものになる。しかし、それはそれでまた楽しみだ。
二度と同じ現象はそこに立ち上がらない、そういう作品に思えた。




この作品は、大和シティバレエ夏季公演「国境を越えて行く旅」(大和市シリウスホール)第2部で上演された。
https://www.sba-ballet.com/ycb

Philip Glass - Morning Passages
https://www.youtube.com/watch?v=iB0sXWwH_eA&t=62s

注 Philip Glass の “Morning Passages” は 、2002年公開の映画 ”The Hours”(邦題『めぐりあう時間たち』) のSoundtrack である。この映画は、時空を越えた三人の女たちの1日を描いたミステリーだが、このダンスとの関連はあまり無いと思われる。



posted by 星跡堂主人 at 13:13| 東京 ☀| Comment(0) | 舞台 Theatre | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする